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写真及びへなちょこショートショート


by shichirio
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ふるさと

久しぶりに実家へ電話した。
母さんが、弱々しい声で「元気だよ・・」と返事をした。
そうか、20年以上連絡をとっていなかった。
もう、80歳近くまで年をとっている。
気がつかなかった・・。
話したい事がたくさんあったが、頭の中は真っ白だった。
母さんの声は、まるで昨日聞いたようで、懐かしさは感じられなかったが
その声からは長い年月が感じられた。
「そろそろ、俺も50歳だ。じいさんの仲間入りだね」
「家が懐かしくなってきたよ」
「近所の人たちは元気かい」
「元気だよ・・」と母さんは答えた。
「そうそう、父さんの墓参りもずいぶんしていなかったね」
「姉さんや、兄さんたちとも会いたいな」
「元気しているかなぁ」
「元気だよ・・」と母さんは答えた。
「それに、学校の友達もどうしているかな」
「僕の憧れだった人ももう、おばあちゃんだね」
「そうそう、一番の友達だったあいつの孫が生まれたんだってね」
「担任の先生はどうしているのかな」
「体調崩したって聞いたけど、元気にしているかなぁ」
「元気だよ・・」と母さんは答えた。
それから、僕はたわいもない話題を母さんに話し続けた。
・・・・・。
「それじゃ、近い内に、母さんに会いに行くよ」ふるさと_e0130137_1818899.jpg
「それまでに、元気でいてくれよ」
「元気だよ・・」
「それじゃ」僕は電話を切った。

1ヶ月後、僕は思いっきり休暇をとって古里へ帰った。
何もかもが、変わらなかったが少し小さく感じられたこの風景、この道のり。
初夏のみずみずしい臭いが漂い、木々の間からは鳥の声が聞こえた。
「古里はいいなぁ」
懐かしさのあまりに何故か足早に実家へ向かっている。
ここを少し上って左だ。成長した木々は五月蠅いほど風にざわめいていた。
「あっ・・・」僕は言葉を失った。
そこには、誰もいない荒れ果てた小さな家が残っていただけだった。
by shichirio | 2008-04-04 18:03